「投稿作品」 「祝13周年相棒祭」

200sコンビ? ネムさま

2018/10/13(Sat) 13:31 No.131
 「風の万里 黎明の空」で“百斤に及ぶ大刀”と“三百斤近い鉄槍”が出てきましたが、 どれ位の重さかと調べてみると、一斤=600gとありました。 計算してみて、成人男性一人を振り回す虎嘯とお相撲さん一人を振り回す桓堆が浮かび 「ひえぇ〜」と思いましたが、その後“三国時代は一斤222gくらい”説を見つけ、 まぁそれ位かと胸をなで下ろした次第です。
 それでもメチャクチャ力持ちで、でも気はやさしいお兄さん達。大好きです ^^
それでも約90sコンビ

好 漢

ネムさま

2018/10/13(Sat) 13:37 No.132
 例えるなら、海の中で潮流に巻き込まれるような感じだろうか。
 大刀が薙ぐ度に、重い、しかし凄まじい勢いで、風が室内に巻き起こる。だが旋風の中心にいる男の足取りは揺るぎなく、咆哮のような気合にも乱れがない。
 やがて風は緩やかになり、吸い込まれるように止んだ。静かに呼吸を整えると、虎嘯は振り向きもせず言った。
「何か用か」
 鍛錬場の扉に寄り掛かっていた桓堆は身を起こした。
「虎嘯の腕前に見惚れていた」
 屈託のない笑顔が弾ける。
「桓堆にそう言ってもらうと、素直にうれしいな」
 そう言いながら片肌を脱ぐ。盛り上がった肩も背中も、水を浴びたように汗が張り付いていた。
「主上が心配していたぞ。最近の虎嘯は、仕事の後も激しい鍛錬をしているようだと。
内宰達の謀反のせいか?」
 桓堆の問い掛けに、虎嘯はあっさりと返す。
「当たり前だ。あんなことはもう二度と起こさせねぇ。
 元々拓峰では毎晩これくらいはやっていた。金波宮(こっち)に来て、腑抜けた俺が悪い」
 桓堆もそれ以上のことは言わず、話を変えた。
「虎嘯は軍に入ったことが無いそうだが、武術の基本がしっかりしている。誰に教わったんだ」
 背を向けて体を拭いていた虎嘯の肩がひょいと上がる。
「軍や有名な道場でなくても、強い奴や頭の良い奴っていうのはいるもんだ。遠甫も長く野におられたんだろう」
「そうだな。虎嘯の師匠なら会ってみたい。やはり拓峰のいるのか」
「とっくの昔に死んだ」
 虎嘯は淡々とした口調で続ける。
「昇紘に狩られた知り合いを助けるために奴の別宅へ切り込んだ。話によると、一人で百人の兵士を切った後に倒れたそうだ。まぁ百人は大袈裟だが、昇紘は普通自分に刃向った奴は切り刻んで道端に晒すのに、そうしなかったのは、余程怖くて、さっさと埋めて忘れたかったせいだろうっていう、もっぱらの噂だな」
 そして大きな背がククっと笑う。
「自分がそんな無茶をしながら、遺言のつもりか、死んでから俺宛に手紙が届いた。“事を起こすなら、時機を待て”なんて書いてあったから、頭にきて三日三晩酒をかっ喰らってやったら、夕暉に打たれて、ようやく目が覚めた」
 桓堆は目を細める。この大きな男にとって、弟の小さな拳ほど痛いものはなかっただろう。虎嘯も笑いながら振り返る。
「くやしいが、待ったおかげで殊恩の連中に会えたし、陽子や桓堆にもだ。師匠の言葉は正しかったてわけだ」
「護られているな」
 静かな桓堆の声に、虎嘯は目を瞬かせる。
「師匠や夕暉や…虎嘯はたくさんの人に護られているんだな」
 暫くの間、虎嘯は黙っていたが、やがて頷いた。
「うん。そうか。そうだな」
 そしていつもの大きな笑みが顔いっぱいに広がった。
「やっぱり将軍様は良いことを言う」
 開けっ広げな賞賛に、桓堆は思わず小さく噴出した。すると虎嘯がひょいと言った。
「桓堆もそうだろう。浩瀚様や柴望様、それに麦州師の奴らにも」
 今度は桓堆が軽く目を見張るが、すぐに頷く。
「あぁ。皆、半獣の俺を一人の人間として扱ってくれるし―」
「それ、何か関係あるのか?」
 問い掛けの意味が分からず、訝しげに見返す桓堆に、虎嘯は苦笑する。
「陽子が言ってたぞ。止水の郷城で、州師の雲橋を熊になった桓堆が軽々薙ぎ倒していくのを見て、自分もやりたかったって。確かに、気持ち良さそうだもんなぁ。二人でうらやましいって言い合ってたんだ」
 一刻の後、何とも言えない表情で桓堆は呟いた。
「…あの主上なら、やりかねない…」
「俺もそう思う」
 桓堆は暫く掌で顔の上半分を覆っていたが、やがて軽く息を吐くと、壁に掛かっていた鉄槍を手に取った。
「俺も主上や虎嘯に負けないよう、鍛錬しなくちゃな。せっかくだから、付き合ってくれ」
「ひと汗流した後で、三百斤のお相手か」
「一人で俺の相手が出来るのは、虎嘯くらいだからな」
「そう言われたら、やるしか無いか」
 虎嘯が笑いながら大刀を構えた。
「行くぞ、相棒」
「いつでも来い」
 そして、再び、風が巻き起こる。
感想ログ

背景画像「「篝火幻燈」さま
「投稿作品」 「祝13周年相棒祭」