(開催期間 2021.09.01.~10.10.)
お祭は終了いたしました。ありがとうございました!
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漸く第2弾
未生(管理人)
2021/10/09(Sat) 22:21 No.61


皆さまこんばんは~。いつも拍手をありがとうございます。
本日の北の国、最低気温は10.5℃、最高気温は21.0℃でございました。外干しの洗濯物がよく乾きましたよ!
さて、管理人は漸く第2弾を投下いたします。甘めの尚陽をお楽しみいただけると幸いでございます。
登場人物 尚隆・陽子
作品傾向 らぶらぶ?
文字数 956文字
陽色の日@管理人作品第2弾
「――黒い髪のお前を、見てみたかったな」
目の前で揺れる緋色の髪を弄びながら、尚隆はつい想いを声に出す。尚隆の頭を膝に乗せた伴侶は、軽やかな笑い声を立てた。
「いきなりどうしたの」
「あちらでのお前は、黒髪だったのだろう」
「そうだけど」
伴侶は翠の瞳を細めて頷いた。そう、この美しい翠玉も、あちらでは黒かったのだ。じっと見つめると、伴侶は苦笑を零した。
胎果はあちらとこちらでは姿が変わる。緋色の髪と翠玉の瞳を持つ景王陽子も、あちらの世界では黒髪黒眼だったはず。
尚隆は蓬莱で目にした泰麒を思い出す。幼い頃一度会ったきりではあったが、その面影はなかった。尚隆を見た泰麒も恐らく同じ想いだっただろう。
「――不憫だな」
「え――?」
「海客は、我が身と名前しか持って来られないが、胎果は我が身すら持っては来られないのだからな。お前はその姿に驚いたのだろう」
尚隆は伴侶の滑らかな頬に右手を伸ばす。翠玉の瞳を少し見開き、唇を緩めた伴侶は首肯した。それから、笑みを浮かべて応えを返す。
「――でも、それはあなたも同じでしょう」
「俺は鏡など見なかったからな」
労わりに満ちた声だった。尚隆がにやりと笑んで答えると、伴侶は軽く吹き出す。蓬莱では有り得ない緋色の髪に指を絡め、尚隆は低く告げた。
「女は不憫だな」
伴侶は淡く笑む。その眼は尚隆の指が弄ぶ己の髪を見つめていた。しばしの沈黙は、あちらのことを回想しているからだろう。やがて。
「確かに、胎果は我が身すら持っては来られないけれど」
伴侶は澄んだ瞳で尚隆を見下ろす。尚隆は手を止めてその翠の宝玉を見つめ返した。伴侶は尚隆の手に己の手を重ね、楽しげに笑う。
「でもね、気づいたんだ。もうひとつ持っているものがあるって」
何を言う気だろう。まるで見当がつかなくて、尚隆は眼で問うた。
「それはね、記憶だよ」
そう答えた伴侶は花ほころぶような笑みを見せる。尚隆は言葉を失った。伴侶は、いつも尚隆の想像の範疇を越えたことを言ってのける。この得難い稀有な女が己の伴侶なのだ。尚隆は唇を緩め、伴侶の小さな手を己の手で包みこんだ。そして、甘く伴侶の名を呼ばう。
「陽子」
「――尚隆(なおたか)」
真の名を呼び返されると、暖かな陽の光に包まれる心地がした。己の真名を呼ぶただひとりの女を引き寄せて、尚隆はその瑞々しい朱唇に優しく口づけた。
2021.10.09.
目の前で揺れる緋色の髪を弄びながら、尚隆はつい想いを声に出す。尚隆の頭を膝に乗せた伴侶は、軽やかな笑い声を立てた。
「いきなりどうしたの」
「あちらでのお前は、黒髪だったのだろう」
「そうだけど」
伴侶は翠の瞳を細めて頷いた。そう、この美しい翠玉も、あちらでは黒かったのだ。じっと見つめると、伴侶は苦笑を零した。
胎果はあちらとこちらでは姿が変わる。緋色の髪と翠玉の瞳を持つ景王陽子も、あちらの世界では黒髪黒眼だったはず。
尚隆は蓬莱で目にした泰麒を思い出す。幼い頃一度会ったきりではあったが、その面影はなかった。尚隆を見た泰麒も恐らく同じ想いだっただろう。
「――不憫だな」
「え――?」
「海客は、我が身と名前しか持って来られないが、胎果は我が身すら持っては来られないのだからな。お前はその姿に驚いたのだろう」
尚隆は伴侶の滑らかな頬に右手を伸ばす。翠玉の瞳を少し見開き、唇を緩めた伴侶は首肯した。それから、笑みを浮かべて応えを返す。
「――でも、それはあなたも同じでしょう」
「俺は鏡など見なかったからな」
労わりに満ちた声だった。尚隆がにやりと笑んで答えると、伴侶は軽く吹き出す。蓬莱では有り得ない緋色の髪に指を絡め、尚隆は低く告げた。
「女は不憫だな」
伴侶は淡く笑む。その眼は尚隆の指が弄ぶ己の髪を見つめていた。しばしの沈黙は、あちらのことを回想しているからだろう。やがて。
「確かに、胎果は我が身すら持っては来られないけれど」
伴侶は澄んだ瞳で尚隆を見下ろす。尚隆は手を止めてその翠の宝玉を見つめ返した。伴侶は尚隆の手に己の手を重ね、楽しげに笑う。
「でもね、気づいたんだ。もうひとつ持っているものがあるって」
何を言う気だろう。まるで見当がつかなくて、尚隆は眼で問うた。
「それはね、記憶だよ」
そう答えた伴侶は花ほころぶような笑みを見せる。尚隆は言葉を失った。伴侶は、いつも尚隆の想像の範疇を越えたことを言ってのける。この得難い稀有な女が己の伴侶なのだ。尚隆は唇を緩め、伴侶の小さな手を己の手で包みこんだ。そして、甘く伴侶の名を呼ばう。
「陽子」
「――尚隆(なおたか)」
真の名を呼び返されると、暖かな陽の光に包まれる心地がした。己の真名を呼ぶただひとりの女を引き寄せて、尚隆はその瑞々しい朱唇に優しく口づけた。
2021.10.09.
後書き
未生(管理人)
2021/10/09(Sat) 22:35 No.64


御題其の二百八「陽だまり」の尚隆視点、拍手其の四百六「陽」を改稿して持ってまいりました。
探し物をしていたら見つけたので出してみました。昔のもの、もう少し出してみますね。
皆さまの素敵な尚陽をまだまだお待ちしておりますよ~。多少過ぎても構いませんので諦めずに出してくださいね!
探し物をしていたら見つけたので出してみました。昔のもの、もう少し出してみますね。
皆さまの素敵な尚陽をまだまだお待ちしておりますよ~。多少過ぎても構いませんので諦めずに出してくださいね!
なるほど~
確かに、蓬莱での姿はいわゆる「殻」(仮面?)みたいなものだと言われても、自然と愛着が湧くのはあっちの方ですよね。
こちらでも「ヨウコ」と呼ばれて(呼ばせて)いる陽子と違い、「ショウリュウ」と呼ばせている尚隆は、名前も姿も悲痛な過去も全部置いてきたつもりなのかもしれませんね。
それを惜しむ気持ちになれたのは陽子さんのお陰なのでしょうか。
……ま、殿が幸せならいいか!
妄想ふくらむお話をありがとうございました。
こちらでも「ヨウコ」と呼ばれて(呼ばせて)いる陽子と違い、「ショウリュウ」と呼ばせている尚隆は、名前も姿も悲痛な過去も全部置いてきたつもりなのかもしれませんね。
それを惜しむ気持ちになれたのは陽子さんのお陰なのでしょうか。
……ま、殿が幸せならいいか!
妄想ふくらむお話をありがとうございました。
切ない、けれど嬉しい
文茶
2021/10/10(Sun) 19:30 No.73


いつか一緒に蓬莱旅行に行って欲しいなぁなんて思うのですがそれは叶わないので、蓬莱での姿は想像するしかないですよね。でも共通の記憶(日本の素晴らしい四季とか)を語り合える相手がいるのは幸せなことだし、胎果の王というお互いに唯一無二の存在があることが支えになっているのだと思います。
二人の強い絆を感じられて嬉しくなりました。素敵なお話をありがとうございます!
二人の強い絆を感じられて嬉しくなりました。素敵なお話をありがとうございます!
あたたかい
『黄昏』で陽子が泰麒に蓬莱の名を告げた時、『月影』で尚隆が陽子にどんな想いで名を告げたかを考えて胸が痛みました。
尚隆の影を照らす陽子は本当にお日様見たいです ^^
尚隆の影を照らす陽子は本当にお日様見たいです ^^
ご感想御礼
未生(管理人)
2021/10/11(Mon) 00:19 No.83


饒筆さん>
三つ子の魂百まで、とも申しますが、やはり最初に自覚した姿が基準になるかと思います。私自身、我が町に住んだ期間は人生の2/3を超えましたが、未だ故郷の町が基準だったりいたします。
かの方は置いてきたものを陽子主上に会ってあまり痛みを伴わずに思い出せるようになったのかなあ、など、饒筆さんのコメントを読んで感じました。
感慨深いご感想をありがとうございました。
文茶さん>
いつか一緒に蓬莱旅行に行ってほしいですよね。「黄昏」を思い返すととても無理なのでしょうが……。
「胎果の王というお互いに唯一無二の存在」――素敵な表現でございますね! ほんと支え合うふたりでいてほしいと思います。
含蓄のあるご感想をありがとうございました。
ネムさん>
それでございます! このふたり、名乗りは必ず本名をなのですよね! まあかの方は三郎を省いておられますが。そこに言葉にできない本音を載せているような気がいたします……。
いつもながら素敵な御感想をありがとうございました!
三つ子の魂百まで、とも申しますが、やはり最初に自覚した姿が基準になるかと思います。私自身、我が町に住んだ期間は人生の2/3を超えましたが、未だ故郷の町が基準だったりいたします。
かの方は置いてきたものを陽子主上に会ってあまり痛みを伴わずに思い出せるようになったのかなあ、など、饒筆さんのコメントを読んで感じました。
感慨深いご感想をありがとうございました。
文茶さん>
いつか一緒に蓬莱旅行に行ってほしいですよね。「黄昏」を思い返すととても無理なのでしょうが……。
「胎果の王というお互いに唯一無二の存在」――素敵な表現でございますね! ほんと支え合うふたりでいてほしいと思います。
含蓄のあるご感想をありがとうございました。
ネムさん>
それでございます! このふたり、名乗りは必ず本名をなのですよね! まあかの方は三郎を省いておられますが。そこに言葉にできない本音を載せているような気がいたします……。
いつもながら素敵な御感想をありがとうございました!
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