「投稿作品」 「5周年」

連鎖妄想と呼べたものかどうか。 黎絃さま

2010/10/09(Sat) 23:57 No.113
 未生さまの「かの方の仮説」(No.106)の続きという形をとらせていただきました。 無駄に長いですけど……ご笑納ください。

かの方の仮説に、卓朗君がのめり込みました。

作 ・ 黎絃さま

2010/10/09(Sat) 23:58 No.114
「──ねえ徇麒、妖魔はどこから現れるのだと思う?」

利広は予告もなく余所の王宮に_______それも真夜中に忍び込んでおいて、突拍子もないことを聞いた。
場所は舜の仁重殿、利広と二人きりで酒を酌み交わしているは徇麒である。
徇麒は褐色の顔をかしげ、やや青味の強い瞳で自分の杯をながめながら答えた。

「さあ。黄海から流れてくるのか、それとも乱れた国で自生するのかすら見当がつきません」
「僕の知り合いはね、里木や野木の下に妖魔の卵果があるんじゃないかと睨んでいるんだよ」
「もしかして女怪のように、ですか?」
「そうそう」
「なるほど、たしかに……そうですね、あり得ると思います」

利広の期待通り徇麒は大いに興味をそそられたらしく、目を丸くして頷いた。

「その仮説が本当だとすれば、今もこの国の野木や里木の下には」
「そういうこと。なのに今の舜や奏に妖魔が全く現れないのは何故だと思う?」
「それは、空位でないからでございましょう」
「でも王が斃れる直前や新王が践祚した直後は、少なからず現れるだろう。それについては?」
「私も常々疑問に思ってきたことではありますが、そればかりは使令たちに聞いても答えてくれません」
「うちの昭彰もそういっているよ」

にこやかに菓子をとりながら、利広が続けた。

「さっき話した知人はね___風漢っていうんだけど___雁にはごく稀に妖魔が現れるんだって」

すると徇麒が青ざめて立ち上がった。雁への輸出で大いに稼いでいる舜の宰輔としては、無理もない反応だろう。

「雁にですか?それは困ります!」
「おちついて。最近の傾向じゃなくて、ずっと昔からそうだから」
「と仰いますと」
「『王がなければ九侯の全て、王があっても九侯のうち余州八侯の半数以上が在らねばならぬ』」
「…………?」
「蓬らいで見つかった泰麒を連れ戻す際、碧霞玄君がそう仰ったそうだよ」
「では、しょっちゅう延王が国をお空けになるのは由々しき問題ですね」
「うんうん、僕は王でも州侯でもないから良いんだけどね」

徇麒の瞳が「そういう問題ですか?」と問いかけたのには利広も気づいたが、とりあえず徇麒の唇は本論に食いついた。

「つまりは王や州侯の存在自体が妖魔の出現を抑える呪なのかもしれない、ということですね」
「あくまで仮説だけどね。まったく間違っていて他に違う原因があるのかもしれないし、他に『も』原因があるのかもしれない」
「……もし複数の原因があるとするならば」
「うん?」
「以前に主上が悩んでおられたのです。妖魔が跋扈している間は、なかなか民が子供を持とうとしてくれないから困ると」
「そうだろうね」
「でももし、逆の因果関係もまた成り立っているとは考えられませんか」
「卵果を欲しがる人々の多さと妖魔の間にかい?」
「ええ。果樹園を営む人は丈夫な枝を育てるために、余計な枝は切ってしまいます。
果実も同じで、あらかじめ数を減らしておくと残りの実が太るのだと」
「うん、それで?」
「国の紀綱が緩むのを察知して民が子供を持とうとしなくなると、その分妖魔の卵果が増えたりするんじゃないでしょうか。
そして州侯が粛清されたり王が斃れたりすると、本格的に妖魔が地上に這い出てしまうのでは」

どのみち荒唐無稽な話ではあったが、真面目な徇麒が話すと真実味を帯びてしまうのが面白い。
利広は文句のつけようがない笑みを浮かべて、徇麒を褒めた。

「徇麒も風漢に負けず劣らず面白いことを言うね」
「しかし卓朗君」
「なんだい」
「風漢という方の仮説、他にはどなたに話されました?」
「君が初めてだよ。どうして?」
「興味深い話ではありましたが、他の方には話さないでくださいませ。
好奇心に駆られて、誰かが里木や野木の根元を掘りかえした暁には_______とてつもなく悪いことが起きる気がしてなりません」

利広は一瞬、真剣な眼差しで懇願する友人をからかいたくなったがやめておいた。
そろそろ徇王が女官の告げ口を聞きつけて、押しかけてくる頃合いだからだ。
なので利広は「徇麒が接吻をしてくれたら考えてみないでもないよ」などとは言わず、優しく笑った。

「誰にも言わないよ。僕の相手を真面目にしてくれるのは徇麒ぐらいだからね」

後書き 黎絃さま

2010/10/10(Sun) 00:01 No.115
 えっと、まずオリキャラ使ってすみません。 せっかく利広という、付き合いの広いキャラを使うのだから話し相手は いくらでもいたはずなんですが……利達も文姫も珠晶もいますからね。
 安直にドリー夢を書き続けてると、自分で掘り下げたことのない原作キャラに 喋らすのがほんとうに難しく感じられてしまいます。 かといって利広のことも深く考察したことはないですが(^_^;)
 妖魔に関する連鎖妄想を書ければ良いじゃないか、と自分にとって書きやすい形に してしまいました。
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