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帰還 griffonさま

2010/03/22(Mon) 23:10 No.121

 とりあえず何かUPしないと落ち着いて騒げない(笑) と言うことで、ちょっと無理矢理なお話を一席<(_ _)>
 今回初めて注意書き無しなお話かも(笑)

登場人物   祥瓊・浩瀚ともう一人  
作品傾向   シリアス・ほのぼの  
文字数   3992文字  




帰   還

作 ・ griffonさま

* * *  壱  * * *

2010/03/22(Mon) 23:12 No.123

 掌客殿の宮のひとつ。ここは、範西国からの突然の来訪者のための専用となって随分な時が流れている。その宮の中でも特に、その来訪者のお気に入りの房室がある。質素を旨とする景王の意向は、ここでは省みられず、ただただ来訪者の趣向を十二分に満足させる調度品が整えられ、その鼻腔をも満足させる香も、常に焚かれていた。立春を過ぎたと言うのにまだ肌寒く、火桶がなければ息も白くなる。この房には常に幾つかの火桶があり、陽子にしてみれば客も無いのに何故そんな無駄な事をと言う事になるのだが、それも威儀の一つなのだと有能な女史が説明してくれた。

 その房室の中央に置かれた大卓の傍の椅子に、紺青の髪で顔を覆う様に項垂れ、座っているのは件の女史、祥瓊だ。姓を孫、名を昭と言う。厳格な法によって民に幸せ齎そうとしたが、結果的には苛烈に民を虐げた冽王の忘れ形見。
 左の掌で額を支え、祥瓊は溜息を漏らした。

「貴女でもやはり悩みますか」
 声を掛けられて顔を上げた祥瓊は、気だるそうに立ち上がり、だが典雅に礼を取る。悩みに沈んでいたとしても、その身体に染み着いた優雅さは隠しようもない。
 礼を受けた相手も美しい礼を返す。怜悧なと言う形容詞にふさわしい立ち居振る舞いだった。

「この身に、まさかこんなことが起こるなんて、今まで想像すらしていませんでしたから」
「そうですね。私もそう思います……とりあえずは今、私が席を勧めるべきか、貴女から勧められるまで待ったほうが良いのか、それすら悩んでしまいますね」

 浩瀚はそう言うと、曖昧な笑顔を浮かべた。
 同様の笑みを浮かべた祥瓊は大卓の傍の椅子を、浩瀚に示し、二人は同時に腰掛けた。

「どうしてこんなことに……」
 祥瓊のふっくらとした唇からこぼれるように、小さな声が漏れた。
「お受けになる、おつもりは無いのですか」
「受けるも何も……」
 祥瓊は浩瀚を見た。
「ある意味、貴女には選択権は無いと言えるのかもしれませんけれど」
 浩瀚から視線を外した祥瓊は、再び溜息を漏らした。襦裙の裾から覗く自分の爪先を暫く眺めていたが、もう一度溜息を漏らしてから、少し顔を上げた。
「陽子は、どう思ったのかしら」
「主上は、最初意味もわからぬままお受けになったと伺っております。改めて、本当の意味でお受けになったのは、維竜だったと」
「そう」
「峯台輔のお申し出は、確かに重いものですね。彼の恵候が背負いきれなかったものでもあるのですから」




 往く方知れずとなっていた峯麒が亡くなったと知れたのは、祥瓊が慶の女史となってから五年後の事だった。新たに成った芳の卵果は、同じく麒。その峯麒が選んだのは、元恵州候、当時仮王であった月渓だった。だが、その月渓も王となって丁度十年目の夏、禅譲と言う形でこの世を去ってしまった。
 冽王より「自ら算奪した」と当人が語ったと言われる仮王の座よりも、真の王と言う重い責務に耐えかねたのか。それともやはり、王と言う立場は特殊なものだったのか。
 仮朝を支え、正式な朝となってからも支え続けた官吏達にも、民からも慕われ、政務にも長けていた月渓をもってしても耐えかねる王と言う座に、自分が相応しいとは、祥瓊はどうしても想像すら出来ずにいたのだ。
 陽子に問えば、―― わたしよりも有能な女史殿に務まらないわけがない。と言われるような気がした。それ以上に誰にも会いたくは無かったし、誰にどう相談したら良いものか、全くもって判らなかった。だからこの掌客殿へ逃げ込んでいたのだが、浩瀚がここへ来ると言うの、祥瓊にとって想像の外だった。




* * *  弐  * * *

2010/03/22(Mon) 23:13 No.125

「主上がこちらにいらっしゃると思っておられたのでしょうね。主上が今何をされているか、想像出来ますか」
 自身の執務室の方卓の前を、行きつ戻りつしている陽子を想像した祥瓊は、淡く苦い笑みを浮かべた。
「恐らく貴女の想像は、はずれですよ」
 浩瀚は、祥瓊と同じように淡く苦い笑みを浮かべている。
「台輔の胸倉を掴まれて、王を断る手段はないのか、天啓が無かったことには出来ないのかと強請っていらっしゃいます。たとえ麒麟と言えども、大切な親友を強奪って行く事はまかりならんとおっしゃって」
 椅子から跳ねる様に立ち上がった祥瓊は、二歩ほど早足で歩いた後に立ち止まった。自分が陽子を諌めに行こうとしている事に気がついたからだった。立ち止まった祥瓊に顔を向けた浩瀚は、くつりと喉を鳴らした。
「道理としては理解されていらっしゃるし、選択すべき道も理解されているようですね」
 浩瀚の言葉に、反論しようと口を開きかけたのだが、実際に出てきた言葉は、祥瓊にとっても思いも因らないものだった。
「冢宰としてこの国と陽子を支えて来られた貴方に、こんな事を尋ねるのは失礼かもしれないのだけれど……」
 祥瓊は、一旦口には出したものの、自分の話そうとしている内容をそのまま吐き出しても良いものか、躊躇った。躊躇っている祥瓊を見た浩瀚は、笑顔を消し、居住まいを正す。
「私が主上よりも優れていると考えた事は無いか? と、お尋ねになりたいのではないですか?」
 祥瓊は口を噤んだまま、浩瀚を見つめていた。

「正直に申し上げれば、実務上のすべてにおいて、主上の風下に立つ事は無いと自負しております。でなければ拝命された職務を、今も続けてはいられないでしょう」
 浩瀚の答えを聞いた瞬間、祥瓊は浩瀚が入って来た時以上に身を縮め、項垂れた。その祥瓊を見ながら、浩瀚は更に続けた。
「麦侯の頃は、王に近い事をしていたように思っておりました。王より預託され一州を治めると言う事は、天帝より全権を委任されて王として在るのと少し似ていると思っていたのです。ですが、やはり王と州侯とでは全く違う。たとえ王よりも実務をこなすことは出来たとしても、やはり王ではない。王はやはり王にしかなれない、のではないでしょうか」
 項垂れた祥瓊の頭頂部を見ながら、浩瀚は音をたて無いように気をつけて溜息を漏らした。

「主上が市井に紛れて、老師からこちらの理を教わっていた頃のお話を、聞かれた事は無いですか?」
「それは……何度も」
「国を鎮めるのは王の仕事。国を整えるのは臣の仕事。整える事で王より劣るのであれば、臣である意味はございません。王が王たる所以は、そこにはありません」
「でも……」

 何に縋れば良いのが判らないが、それでも何かに縋らねば崩れてしまう。そんな貌で祥瓊が浩瀚を見ていた。――こんな貌の祥瓊を、見たことがあっただろうか と、浩瀚は記憶の海に潜り浮上する間、祥瓊の眼を見詰めていた。

「まぁ、そう慌てることも無いでしょう。十五年が十五年と数日となったところで、大勢に影響はありますまい。主上や鈴やその他の者達にも色々とお話されたいこともあるのではございませんか? とりあえず、その者達が、こちらに伺うご許可だけでもいただければと思いますが」

 浩瀚のその言葉を待っていたかのように、房の扉あたりから人の蠢くような気配がした。 ―― まだ早いからっ 抑えた色が聞こえた。陽子の声だった。




* * *  参(了)  * * *

2010/03/22(Mon) 23:15 No.126

 峯麒と共に天勅を受け、玄武の背よりこの鷹隼宮に降り立ち二日が経ったが、さすがに燕寝に近づく気にはまだなれてはいなかった。結局、陽子のように正寝の執務室に続く宮に居ついてしまっていた。
 冢宰と即位の礼に関する打ち合わせを済ませた後、祥瓊は自室とも言える宮に戻ろうと走廊を一人で歩いていた。自身の爪先を見詰めながら歩いていた祥瓊は午後の暖かな日差しを受けて、ふと顔を上げた。何度も通っているはずなのに、走廊から見える園林の木々を、鷹隼宮に戻って来てから初めて見たような気がした。
 漸くこの芳も春めいてきたのだと、気付きなんだかふっと肩の力が抜けたような表情になった祥瓊は、回廊と一体になった露台へと出た。大きな池の畔にその露台はあり、執務室と宮の中間点にあった。その池を取り囲むように、陽子から送られた山桜が植えられていて、既に満開となっていた。桜を眺めようと歩を進めると、眩しい春の日差しにちょうど逆光になっているため表情までは見えないのだが、一人の青年が立っている事に気がついた。
 青年は、拱手する。鷹隼宮で叩頭しない者を見たのは初めてかもしれないと、祥瓊は思った。
「よう」
 聞き覚えのある声。
「陽子に言われて言祝ぎに来たんだけど、正殿に通されるのかと思ったらここなんで、おいら面食らっちまったよ」
「楽俊っ」
 日差しを避けるように左手を翳した祥瓊は、温和な笑顔をみて、思わず駆け寄ると楽俊を抱きしめた。
 楽俊は左腕で肩を抱き、右腕で紺青の髪の頭を抱えるようにして後頭部を撫でてやった。
「陽子から連絡を貰った時は、ちょうど漣にいたもんだから。遅くなっちまって、ごめんな」
「ううん。楽俊は忙しい身だもの。陽子の言う”外交大使”として、十二国中文字通り飛び回っているんだもの」
「それなんだけどなぁ……」
 楽俊は祥瓊から少し身体を離すと、苦笑いを浮かべ、左手の人差し指で眉の辺りを掻いた。
「クビになっちまった。ついでに慶の仙籍からも外されちまった」
「そんなっ なんでっっ」
 楽俊の手腕を一番買っていたのは陽子のはずだ。それどころか、ほぼどの国でも楽俊は受け入れられ、なにかにつけ頼られている存在なのだ。それを手放すなんで……祥瓊は陽子のやり様に疑問を抱くより呆れていた。どうにか諌めなくてはと、女史だった頃のようにふと口走った時、もう祥瓊は慶の女史じゃないぞと、楽俊がくつりと笑った。
「芳で大任を果たして来いとさ」
 目を見開いた祥瓊は暫く、はにかんで笑む楽俊を見詰めた後、その頸にぶら下がる様に抱きついた。
「がんばってはみるけど。おいら、今度は何をすればいいんだ」
「大公と冢宰と、どちらがお好み?」

 池の畔に植えられた桜から風に乗って舞って来た花弁が、紺青の髪の上にひとつ載った。楽俊はそれを摘み上げながら、どっちが祥瓊を幸せに出来るだろうかと考えていた。


―了―





うーむ griffonさま

2010/03/22(Mon) 23:56 No.127

 やっぱりかなり無理矢理すぎる(^_^;)
 面白くないかも・・・

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