「続」 「投稿作品」 「11桜祭」

[連鎖妄想+宿題提出]驍宗と陽子の園遊会 黎絃さま

2011/03/29(Tue) 18:32 No.159

 去年の桜祭りの期間内に書けなかった、「驍宗×陽子のデート」です。 驍宗が戴国に陽子らを招いて花見をするというネタ自体は去年から練っていたのですが、 三分の二以上は今回の祭りが始まってから書いたので連鎖妄想が物語を膨らませてくれました。
 さくやさまの#56「さくらだよりおまけ」に添えられた和歌からの連鎖妄想です。
桜花 今ぞ盛りと 人は言へど 我れは寂しも 君としあらねば
万葉集 巻18−4074 大伴池主
(桜の花は今が盛りと人はいうけれども、あなたと一緒にいないので、私は寂しい。)
 そして未生様が執筆された連鎖妄想作品(No.154)とその後書き(No.156)からも、 文通という素材を頂きました。
 さくやさま・空さま・ネムさまの写真を見てはじめて覚えた桜の名前も多数いれてみました。

 ただ地雷といえる設定が多いので、下記の要素が苦手な方はパスして下さいませ。

時期:驍宗が復権して約二十年後、という絵空事です。
CP有り:尚隆×(驍宗+陽子)。BLとNLが入り乱れてます。尚隆は平気で嘘ついてますし。
登場人物:戴、雁、慶、範などなどの要人。 いるのは確かだけど原作で登場してない麒麟もちらほら居ます。 故人ですが、尚隆とオリキャラ(性別不特定)の逸話があります。
傾向:ギャグを目指していたはずが末声ものになってしまいました (原作キャラの末声はありません)。すこしだけ切ないです。

登場人物   陽子・驍宗・尚隆(オリキャラあり)  
作品傾向   シリアス(驍宗×陽子未満)  
文字数   8735文字  

同業者の誼と、愛しさと

黎絃さま

* * *  上  * * *

2011/03/29(Tue) 18:33 No.160

晩春の戴国垂州、常庸。
垂州の北端に位置する常庸には州都をしのぐ高さの凌雲山があり、その名を紫冥山といった。
洞府の名には諸説あり、紫煙洞とも紫冥洞とも、もしくは紫翠洞ともいわれる。
いずれにしろ紫にちなむ名で呼ばれるのとは裏腹に、紫色の建物は一つもない。
淡い萌黄色の素朴な屋敷と、幾つかの四阿(あずまや)が建っているのみである。
そもそもこの洞府の真価は建物にあらず。
幾種類もの桜が同時に満開する凌雲山自体が、国の宝なのだ。

「いつにも増して綺麗ですね」
驃騎の背に乗った景麒が口を開くと、班渠の背に乗る陽子が頷いた。
「うん、何度見ても息を飲む絶景だよ」
班渠が忍び笑いをしたので、景麒が渋面する。
景麒は「主上が」綺麗だと言いたかったのだが、主語を省いては伝わるはずがない。
慶国の主従が戴国紫冥山に招かれるのは今年で五回目だが、そのたびに景麒は同じことを言っている。
だが毎回紫冥山へ辿りつく頃に言われるので、陽子は景麒の真意など少しも分らなかった。
金波宮を出てすぐに褒めることが、何故できないのだろうか。
驃騎が溜息をつくと、遁甲している芥瑚もまた溜息をついた。
一行が辿りつくと、先に到着していた氾王藍滌はすかさず陽子の衣装を褒める。
「あそこまで的確に褒めることはできずとも、
せめてタイミングぐらいは台輔にも見習ってほしい」と重朔がつぶやく。
冗裕も「延王や泰王でさえ、一言ずつ褒めているのに……」と苦笑した。

一国の離宮に、十一国の麒麟と四カ国の王。そうそうたる顔ぶれである。
ただし氾王は泰王への挨拶を終えるやいなや、
「一人でじっくりと桜を愛でたい」と散策に出かけてしまった。
延王もそれに倣い、夜宴までには戻ると言ってソメイヨシノの咲く丘へと向かう。
結果として陽子は、ごく自然な形で泰王驍宗と二人きりにされた。
景麒からすれば氾王はともかくとして、延王の胸中が訝しい。
どういう風の吹きまわしだろうか、と考える景麒を余所に、
陽子は「枝垂れ桜に挟まれた道を歩きたい」と驍宗に申し込んだ。
景麒としては主君を泰王と二人きりにしたくない。
ところが今度は泰麒が、景麒の手を取って表庭へと誘った。
いつの間に実年齢は三十歳を超した泰麒だが、その笑顔は相変わらず健気過ぎる。
景麒は泰麒に微笑まれると何も言えない。景麒は諦めて、驍宗の慎みを信じることにした。

泰麒に誘われて景麒が赴いた庭園には、辺り一面に八重桜が咲き誇っていた。
手前の四阿では、供麒が宗麟・廉麟・采麟に囲まれて和んでいる。
少し離れた場所では氾麟が山桜の幹にまたがり、いやがる延麒の髪に白い花を挿している。
さらに向こうを見ると、滝桜の大木の下には劉麒と徇麒、そして塙麒がいた。
彼らは泰麒の捜索に参加しなかったものの、いずれも
驍宗が復権してからは積極的に食糧の支援をしたのである。
どうやら劉麒と徇麒は込み入った話をしている様子で、まだ幼い塙麒は退屈してきたらしい。
そっと徇麒の手を解き、延麒と氾麟の側へ駆けていく。
景麒は大寒桜の木陰に腰かけ、泰麒と談笑をはじめた。

「綺麗……」
陽子が通された山麓には、樹齢百年を超える枝垂れ桜が幾千も立ち並んでいた。
地形が険しいため、去年までは空から見下ろすしかできなかった場所である。
それをとりわけ残念に思ったのは陽子だった。
ところが、今年は立派な遊歩道が整えられている。
陽子は質素でいて頑丈な造りの遊歩道からも驍宗を感じ取り、頬を染めた。
枝垂れ桜は様々な音を遮っていて、渓谷の水の音すら聞こえない。
特に陽子が歩いているのは、岸壁に設けられた歩道だった。
枝垂れ桜が上下の視界を殆ど覆っているので、余り恐ろしくはない。
だが陽子は優しく笑む驍宗に見つめられ、足がすくむ。
「お気に召したようで何よりだ」
「余りにも幻想的な路なので、なかなか足が離れません」
陽子は必死で声を整えた。女の匂いに乏しいといわれている普段の声を保ちたい。
「なら、こちらに掛けてください」
驍宗は、おあつらえ向きに設けた榻を示した。
「お言葉に甘えて……」
ぎこちなく陽子が座ると、驍宗も隣に座った
――泰麒に教わったとおり、陽子~榻の端までと等間隔の距離を置いて。

陽子はこっそりと深呼吸してから、改めて驍宗の服装を眺めた。
堅苦しくもなく、かといって崩しすぎでもない略礼装。
ちょうど陽子も、それに釣り合う装いだった。
もともとは普段のように朝服を着るつもりだったが、祥瓊から雷を食らったのだ。
―ただでさえ泰王の前では平静を装うのが大変なのに、そんな分かりやすい服を着たくない!
―あんたが泰王を慕っている事なんて、当の泰王以外は
 みーんなに知れ渡っているのよ!いい加減開き直りなさい!!!!!
―延王以外にもか!? 嘘だろう祥瓊!鈴、頼むから嘘だと言ってくれぇぇぇぇ!
泣く泣く女性らしい服をまとって出たら、禁門で待機していた景麒は面喰っていたっけ。
まぁ結果として祥瓊は正しかったけど――けれど。
(泰王は氾王に見染められた方なんだもの)



「陽子、泰王に惚れるんじゃないぞ」
泰王驍宗が復権した直後、陽子は初めて驍宗と顔を合わせた。一目ぼれだった。
そして翌日には延王から釘を刺された。陽子が否定も肯定もできぬうちに、
尚隆は陽子が驍宗を好いてはならない理由を並べ立てた。
二人は登極して日が浅い、
今は疲弊した国を建て直すのに集中すべきだ、
とうぜん恋愛などしている場合じゃない、
特にお前は先代の景王が恋に溺れて道を踏み外した手前なおさらのこと、
それも他国の王と色恋沙汰など臣下の不信を買うだけ――等々。
陽子も多少は貫禄をまとい始めていたが、五百年先輩の小言には一言も反駁できなかった。
したがって尚隆もその辺で止めておけばよいのに、彼は更に畳みかけた。
「驍宗は王になって間もないが傑物と謳われるほどの将軍だった。
生きてきた歳月も陽子よりは格段に長い。お前のような小娘が秋波を送ったところで相手にもされんぞ」
「そんなこと言われなくても分かっている!」
流石の陽子もカッとなり杯を床に叩きつけると、尚隆は何時になく底意地の悪い顔で笑った。
「利口なことだな。さらに付け加えるなら、乍驍宗には藍滌が唾をつけてある」
氾王が――?そういえば思い当たる節はいくつもある。
尚隆は硬直している陽子を一瞥して立ち上がると、フフンと鼻を鳴らして禁門に向かった。
「という訳だから手を出すなよ、青二才の女王様」
だが、それはそれで良かった。
慶と戴はそこそこ貿易も盛んだが、あえて王同士が会う必要などない。
十五年後、泰麒が陽子を紫冥山へ招きさえしなければ、陽子も驍宗を忘れられたかもしれない。
だが紫冥山への招待は、泰麒の捜索に手を貸してくれた諸国に対する、驍宗の誠意だった。
たいがいの国では農民・官吏を問わず、桜の咲く季節が一番忙しい。
だが戴と芳で桜が咲くころには、延王も景王も仕事が一段落する。
ならば諸国の王と台輔に紫冥山で寛いでいただこう、という
花影の名案は即刻に採択され、泰麒は各国の王宮を訪れた。
陽子が驍宗の親書を手にして最初に思ったのは、「泰王にまた会える」ということだった。

背景画像 瑠璃さま
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