「投稿作品」 「11桜祭」

勇気を振り絞って、初めまして・・・ 饒筆さま

2011/04/05(Tue) 21:37 No.266

 初めまして。饒筆(じょうひつ)と申します。
 ずいぶん長い間、ただの「読者」でいたのですが、今夜なぜか勇気が湧いたので、 清水の舞台から飛び降りてみます。
 投稿すること自体が初めてなので、いろいろ無作法などありましたら、 平に御容赦・御指導をお願いいたします。
 拙宅の呑気な桜がなかなか咲きそろわないので、じれったすぎて思いついた駄文です。

登場人物: 慶国の皆さま(主に陽子、浩瀚、遠甫)
カップリング: カップル未満です。
傾向:全編ギャグです。笑い飛ばしてください。
文字数:全部で二千文字ちょっとになりそうです。 手元では完結しているのですが、今日中に書けるかな・・・

よろしくお願いいたします。 

登場人物   陽子・浩瀚・遠甫など  
作品傾向   ギャグ(浩陽未満)  
文字数   3907文字  

サクラ咲け!(副題「陽子さんは反抗期」)

饒筆さま
2011/04/05(Tue) 22:13 No.267

* * *  1  * * *

 赤楽十年三月のことである。
 よく晴れた午後、景王陽子は庭園の散策を楽しんでいた。風はまだ冷たいが、明るい日差しには温もりを感じる。
 ちらほら咲き始めた花を見つけては、心が浮き立った。
「もうすぐ春!だなあ」
 まだ薫るには早い沈丁花の蕾に顔を寄せる。ふと、女御たちの話し声が耳に入った。
 −まあ、貴女もお読みになりましたの、そのお話。
 −本当に素敵で感動しましたわ。
 −私もすっかりトキメいてしまって、その夜はなかなか眠れなかったのよ。
 顔見知りの女御が三人、廊下で立ち話に興じている。その手には薄紅色の装丁が施された本が一冊。綺麗な色だな、と陽子は思った。まるで桜みたいだ。
 好奇心に負けて、茂みの陰から顔を出した。
「ねえ、その本そんなに面白いのか?」
 気さくに声をかけたのに、
「き、きゃああああああ!!!」
 陽子の顔を見るや否や、女御たちは慌てふためいて逃げ去ってしまった。
「しまった。ビックリさせちゃったかな」
 頭を掻いて見送る。足元には桜色の本が落ちている。
 何気なく拾って、適当に開いて、数行読んだとき。
 陽子の目が点になった。

   秘めた言の葉はただひとつ。
   淡く染まったこの思いを、舞い散る花片に乗せて届けたい。
   そう心に決めたのに、胸に詰まって告げられないなんて。
   ましてや、彼の涼やかな眼差しに捕われてしまっては・・・
  「如何なさいました、主上」
   私の声も風に散る。
   −好きだ、浩瀚。愛している−

「な、何やコレ〜!!」
 驚嘆のあまり、関西弁になっていることも気付かない。
 急いで頁をめくれば、身に覚えのない艶談が記されていた。自分と、冢宰の。
 数分後、緋の怒髪が天を衝いた。

 バタン!重い扉を蹴り破った主に、景麒が眉を顰めた。
「主上。ずいぶん長い気晴らしで・・・」
「景麒!コレを見ろ!」
バシッと打ち捨てられた薄紅色の本。それを見た途端、景麒は主から目を逸らし、傍らの祥瓊は青ざめた。
「おまえら・・・知っていたんだな!」
 陽子が景麒に襲いかかる。首を絞められ、激しく揺さぶられながらも、麒麟は律義に返答した。
「ね、根も葉もない駄文です。主上がお気になさることはありません」
「気になるよ!」
 緑瞳が燃えた。
「第一、あんなのちっとも浩瀚らしくないじゃないか!!」
 え?
 怒っているのはソコなんですか?
 景麒と祥瓊は同時に疑問を抱いたが、陽子の剣幕に押されて首を傾げることさえできない。
「そりゃ浩瀚は忠義に厚いし有能だし、頼りにしているよ、とても。だけど・・・こんなに誠実で優しいワケがないだろ!!」
「え、ええ・・・」「まあ・・・」
 思わず首肯しそうになった自分を、二人は咄嗟に抑えた。陽子も怖いが、もしこの発言がうっかり冢宰に知られてしまったらその報復はもっと恐ろしい。
 迂闊に動けない二人を他所に、陽子は冢宰府の方向をビシッと指した。
「こんなバカ正直で甘ったるい男に、うちの冢宰が務まる筈がない!アイツはもっと腹黒で、情けも容赦も無いんだ!」
 雷を落とすように、熱く鋭く言い切る。
「・・・ごもっともです」
 景麒は投げやりに頷くしかなかった。
 それはそうだろう。なにせ、彼はこのトンでもない王の右腕なのだから。

2011/04/05(Tue) 23:21 No.269

* * *  2  * * *

 ちょうどその頃。
 冢宰の執務室では、運悪く居合わせてしまった下官らが片隅に固まって震えていた。
 堂室の主は平常通り大きな書机に向かっているのだが、その手元には見慣れぬ桜色の本がある。速読しているのだろう。頁が流れる度に眉間の皺が深く刻まれ、琥珀の眼に剣呑な光が宿る。こ、怖い、怖すぎる・・・。
 裏表紙が静かに閉じた。
「有り得ない」
 怒れる閻魔の押し殺した声に、下官の一人がヒイと喉を鳴らす。
 怯えきった周囲に構わず、浩瀚は瞑目した。
ー確かに主上は率直で大変魅力的な御方であるが、これほど素直でお可愛らしい訳が無い。
「これは主上への侮辱だ。この様に純情で繊細な娘に、一国の王が務まる筈が無い。我が主上はもっと常軌を逸しており豪胆であらせられる」
「な、なるほど・・・」
 一同はカクカクと機械的に頷いた。
 それはそうだろう。なにせ、あの少女王はこのトンでもない男の主君なのだから。
 浩瀚は一度虚空を睨んだ後、サッと立ちあがった。
「執筆者に厳重に抗議しに行く」
「えっ!御存じなのですか!」
「見当はつく」
 向けられた視線の冷たさに、下官たちが凍りつく。開いた扉から吹き込んだ風さえ、肌を刺すようだ。
 今夜、アレを書いた誰かが死ぬんだろうな・・・。
 一同は命知らずな誰かさんの冥福を心から祈った。


 一方、陽子ももちろん犯人捜しに燃えていた。
「この本をよく読むと、私の口調やクセが正確に書いてあるんだよね。もしかして・・・」
 ギロリと睨まれ、祥瓊が勢いよく頭を振る。
「わ、私には無理よ!その手の恋愛小説が苦手なのを知っているでしょう?! 読むだけで鳥肌が立つのに、書くなんて無理ムリ!」
 不幸なタイミングでお茶を運んで来てしまった鈴も、慌てて口を添えた。
「私にも無理よお。そんなに上手な文章書けないモン」
「友達のセンは無しか・・・」
 確かにこの二人には無理だ。そもそも、下手すれば浩瀚に消されるかもしれないのに、よくぞ書いたものだと・・・ん?
「私をよく知っていて、文章が巧みで、浩瀚も容易に手出しできない人物と言えば・・・」
 鉄面皮麒麟は問題外だから。
「あ・い・つ・かあ〜!!!!」
 ひと声吠え、陽子が電光石火のごとく駆け出す。
 机上から舞い散る書面を眺め、景麒が盛大な嘆息を洩らした。

2011/04/05(Tue) 23:48 No.271

* * *  3  * * *

ガタン!
「老師!」
 問答無用で押し入れば、室内を氷結させた先客が額に青筋を浮かべて座していた。
「おお、陽子。浩瀚とお揃いで、何の用かのう?」
 白髭の飛仙は小春日の笑顔だ。陽子は黙って桜色の冊子を押しつけた。
「これ・・・老師がお書きになったんですか」
 唸るような問いに、老師は軽く答える。
「そうじゃよ」
「そうじゃよ、って!! どうしてこんな真っ赤な嘘を!!」
 陽子の両拳が怒りで震えている。浩瀚の刺すような視線も、現実に殺傷能力を持ちそうだ。
 が、しかし、老師は至って快活だった。
「いやもう、二人の様子がじれったくてのう。見ておれんのじゃ。だから少しお節介を焼いてみたのじゃよ」
 ほっほっほ。
「はあ・・・?」
 虚を突かれ、陽子がぽかんと口を開けた。何だって?誰がじれったいって?
 一流講師陣の熱血指導で、誰よりも強く逞しく(笑)成長し、王として一人立ちを始めた陽子。彼女が「いつまでも守り支えられる身でなく、自分の手で朝を動かしたい」と、浩瀚に(一方的に)宣戦布告したのはつい先日のことだ。
 以来、色気どころか、主導権を巡って虚々実々の駆け引きが錯綜するこの殺伐とした主従関係のどこに、お節介が必要なんだ?
 ホワイトアウトした意識を引き戻したのは、浩瀚の沈痛な声だった。
「老師・・・暇潰しは他所でやっていただけませんか」
 彼も痛む眉間を押さえながら嘆息している。
「なあに、そのうちワシに感謝することになろうて」
 全く懲りていない老師が、にこやかに二人を見比べる。
 陽子が一気に脱力した。
「・・・せめて謝ってくださいよ、老師・・・」
「なんじゃ、ワシは悪いことなどしとらんぞ。ほれ、この物語は虚構(ふぃくしょん)です、と最初に書いてある」
 ぐうの音も出ない。
 もはや何を言っても無駄だった。

2011/04/06(Wed) 01:39 No.274

* * *  4  * * *

 ぐったり疲れて帰る背中を見送った後、桂桂は老師に非難がましい眼を向けた。
「本当にこれでよろしいのですか」
 件の本を返された時の、陽子の苦々しい表情がなんともかわいそうだった。
「僕も読みましたが、やっぱり、絶対、変ですよね! 陽子・・・主上は主上らしくないし、浩瀚様も浩瀚様らしくないし」
「そこがミソなんじゃよ」
 老師が眼を細める。
「この本にはのう、陽子にとって理想の浩瀚と、浩瀚にとって理想の陽子が書いてあるんじゃ。そのカラクリに気づけば、少しは歩み寄って仲良く政務を執れるのではないかの」
 なんて回りくどい。
 喉まで出かかった言葉を飲み込んで、桂桂は精いっぱいの渋面を作った。
 さすがの老師も論理の無理を感じ、あさっての方角を眺める。
 ー仕方ないじゃろう。まさかあの本が、新年会で盛り上がった「金波宮の中で、誰かと誰かを(無責任に)くっつけちゃおう企画う〜(ドンドン☆パフパフ〜♪)」の産物だとは言えないからのう。
 ましてや、たまたま残業で遅れただけの二人に白羽の矢が立ったなどどは、口が裂けても言えまい。


 夜は静かに更けてゆく。

 陽子は寝台の陰に燈火を隠し、こそこそと読書を続けていた。読んでいるのはもちろん、あの桜色の本。
「あ〜あ。こんな風に浩瀚が私を認めてくれたらなあ。これでも相当ガンバっているのにな、私」
 紅唇を尖らせ、頬杖をつく。
「はあ・・・アイツがこんな奴なら私だって・・・少しは可愛く甘えてみようかな、なーんて・・・」
 そこで我に返った。
「思わない思わない! ないものねだりは止めよう!」
 これ以上考える前に、寝た方がいいに決まっている。

 一方、彼の君も。
 官邸で酒を嗜みつつ、苦笑を浮かべていた。
「まったく、老師の悪戯はタチが悪い」
 小卓の上には、件の本。
 あの後、浩瀚は桓タイを締め上げ、宴席での戯言を白状させた。悪ノリしている連中には鉄槌を下してやろう。して、この本は・・・後日、主上をからかうネタにするか。焚書にするのはその後だ。
 それにしても、と彼は首をひねる。
ー私は、作中の主上のような手応えの無い娘など、わざわざ相手にしないがな・・・。
 我が主上は、どうにも不器用で意地っ張り。自ら壁に体当たりしないと前に進めない。ただ・・・
 何度玉砕しても懸命に足掻いて立ち直っては挑んで来る、その御姿が一番愛らしいのだ、と世慣れた男はくつくつ笑う。

 静かに、密やかに更ける夜。
 桜咲く春は、まだ、遠い?

<完>

感想ログ

背景画像 瑠璃さま
「投稿作品」 「11桜祭」

 

FX