「投稿作品」 「11桜祭」

初めての投稿です、どうかあたたかい目で…… 鷲生智美さま

2011/04/11(Mon) 21:00 No.398

 初めて投稿します。あたたかい目で見てやってくださいまし。
 題名「桜花の散」、文字数1551文字で、驍李前提の尚→李です。 「しっとり」した雰囲気になってるといいのですが……。

登場人物   李斎・尚隆(驍李前提・尚→李)  
作品傾向   しっとり  
文字数   1551文字  

桜 花 の 散

鷲生智美さま
2011/04/11(Mon) 21:02 No.399

 戴に本当の春が巡って来た――。
 泰王驍宗が復位してから幾年か経ち、泰王は、救国の女将軍・李斎を王后として迎えると宣言した。
 その婚姻の儀を明日に控え、戴の民もこの慶事を喜び、街中で飲んだり歌ったりと既にお祭りのような状態になっている。
 雲海上の白圭宮の者達、とりわけ驍宗が長年李斎を想い続けていたことを知る者達は、時折手を休めて感慨にふけりながら、明日の儀式の準備に余念がない。
 その中で李斎もまた、じっとしている訳にはいかなかった。彼女は今、賓客として招かれた延王をもてなしている。戴の復興に際してどれだけ延にお世話になったかと考えると、李斎こそが直接この恩人をもてなしたいと思ったのだ。

 苔むした桜の巨木の下で尚隆は無言だった。李斎も何も言わずに側に立っていた。蓬莱では桜を特別に愛でるのだという、ならば延王もきっと何か物思いにふけっておられるのだろうと思いながら。
 満開に咲き誇る桜花の群れから、ただ一枚の花びらが舞い下りて来た。春の穏やかな空気の中を右にひるがえり、左にひるがえり。そしてそのひとひらが地にふんわりと下りるのを見届けると、尚隆は李斎を見た。
 しかし、尚隆の視線は、李斎のそれと合うやいなや外された。李斎が思わず目を逸らしてしまったのだった。その時の尚隆の目には、いつもの晴朗さ以外に、夫の友人のものにしては何か危険なものがあるような気がしたので。
 尚隆は李斎の視線に固執せず、苦い笑みを浮かべながら桜を見上げて話しはじめた。
「そなたが金波宮で養生していたときだったな。泰麒をこちらに連れ戻すにあたって蓬山に使者を立てようとした」
「はい……」
 李斎は地面に目を落としたまま、ただ相槌を打つ。
「そなたは未だ休養が必要な身だというのに、『自分が行く』と言い張った。俺が『いとうていろ』と言えば、『もう治りました』と言い放って……」
「はい……」
 李斎は胸の鼓動が早くなるのを感じ、左胸を手で押さえた。尚隆が再び自分に視線を当てる気配を感じながらも、彼女は俯いたまま目線を上げない。
 しばらくの無言の後で、尚隆は口を開いた。
「良い目をしていた――強くて真っ直ぐな瞳だ。あの瞳を見て俺は……」
 その時だった。巨木の桜の枝という枝が揺れ動いて、ごうごうと大きな唸り声をあげた。凄まじい突風が吹いたのだ。視界を覆うほどの数多の花弁が、吹雪のように荒れ狂う。尚隆と李斎は桜花の乱舞が終わるまで、ただ茫然と立ち尽くしていた。
 やっと最後の一枚が静かに地面にその身を横たえた後、尚隆は「はっ」と短く笑った。李斎は彼を見る。彼の瞳にはもうあの危険な光は無かった。
「凌雲山の雲海上でこれ程の強風が吹くか。この山の主は相当にお怒りだったようだ」
 李斎はその言葉の中身に触れるのをわざと避け、巨木の根元に敷き詰められたように散らばる花弁を見ながら言った。
「それにしても桜は儚い。一斉に散ってしまいます。どうして蓬莱ではこのような花を愛でるのでしょうか?」
 尚隆は苦く笑いながら答えた。
「花は散るから美しいのだ」
 その言葉の後にそっと「恋心もな」と彼は呟いたような気がしたが、李斎は何も聞かなかったことにした。
 微妙な空気を断ち切るように、きっぱりとした明るい声がした。
「幸せになれ、李斎。あの男と共に、永遠にな」
 尚隆の目には、いつもの青空のような爽やかさが戻っていた。李斎もまた晴れやかな笑みを、まさに明日嫁ぐ花嫁にふさわしい華やかな笑みを浮かべた。
「有り難う存じます。延王」
 尚隆は一つ頷くと踵を返し、彼女に背を向けて歩き出した。
 ――そして延王はお独りで生きていかれる……。
 彼を見送る李斎の視界に、散り遅れた一枚の花びらがひらひらと落ちてきた。空気の中をただ一枚、左右に揺らめき落ちるその花びらを、彼女はかすかな胸の痛みとともに見つめていた。

「桜花の散」について 鷲生智美さま

2011/04/11(Mon) 22:47 No.403

 実は去年も投稿しようと思ったのですが果たせず……。 私は短いお話が書けません。 どうしても原稿用紙50枚程度にまで話が膨らんでしまいます。 で、今年は「逆転の発想」で臨みました。 自分の書きやすい50枚程度のお話を作ってから、 その一場面を抜き出して投稿することにしたのです。 その50枚程度のお話は拙宅(「荒国再生譚」といいます )に掲載しております。 お暇があれば覗いて下さいませ。
(「荒国再生譚」へは 祭リンク集 よりお進みくださいませ。2011.06.15.管理人追記)

感想ログ

背景画像 瑠璃さま
「投稿作品」 「11桜祭」

 

FX