「投稿作品集」 「13桜祭」

迷いの杜の薄墨桜 griffonさま

2013/03/18(Mon) 00:10 No.52
 さて、今年も桜祭が始まって・・・これからゴールデンウイークあたりまで?  楽しめるのかと思うとワクワクです。

 とりあえず、一個投下いたします。

 登場人物は・・・一応フセます。 読んだらすぐに判るでしょうけど、名前を本文中の表記してませので、 一応フセますね たぶん、ほのぼの系 2000文字程度のものです。
 それでは・・・

迷いの杜の薄墨桜

griffonさま
2013/03/18(Mon) 00:16 No.53
 柔らかそうな緑の下草の生い茂った広場の真ん中に、その桜は立っていた。桜を中心に据え、放射状に何本かの道が出来ていた。人が通る事によって自然に出来た道だ。その道は、周囲を取り囲むように存在する森へと続いていた。

桜は、鉢を伏せたような形に枝を伸ばしていた。その幹周りは正丁が十人ほど手を繋いでも届かぬ程の太さがあった。その根元には小さな泉があった。透明度の高い泉の中央からは、更に清涼な水が水底の白と黒の砂を掻き分けて湧き上がってはいた。が流れ出る先は見当たらない。枝先の華芽はふっくらと開き初めたばかり。だが、少し気の急いた芽もあったのか既に開ききり、墨絵で描いたような白い花も、散見された。

 趨虞が一頭、桜の根元の泉に頭を突っ込んでいた。その背には、鞍が着けられている。辺りには人の気配はない。持ち主は、既にこの世の者では無くなっているかもしれない。何しろここは人外の地、黄海。趨虞にとっては故郷と言えるだろうが、乗っていた者にとっては危地以外の何物でも無い場所。人の数よりも妖魔の数の方が圧倒的に多い場所なのだ。だが、このような場所を故郷と呼ぶ人々も中にはある。

 趨虞は、水を飲んでいるわけではない。水底をその頑丈な下顎で掘り、砂を掻き分け、縞瑪瑙を取り出しては頬張っていた。この泉は縞瑪瑙の玉泉だったのだ。縞瑪瑙を口に含んでは泉から顔をあげ、喉を鳴らして緑の下草に寝転び喉を鳴らす。これではたとえ持ち主が近くに居たとしても、命を聞くとは到底思えない。

 いつの間に現れたのか、寝転がり喉を鳴らす趨虞の傍に片膝をついた青年が居た。

「君の養い主はどうしたんだい」

 そういいながら右手を伸ばしたその青年は、趨虞の耳の後ろを撫でた。撫でながら、左手で玉佩から透明な玉を一つ取り外し、それを右手に持ち返ると、趨虞の額に当てて短い呪を唱えた。横たわっていた趨虞か忽然と消えてしまった。

「こんなところに居られては、万が一と言う事もあるからね」

 青年は右手の縞瑪瑙にそう呟いた。透明だった玉佩の玉はいつの間にか縞瑪瑙に変わっていた。よく見ると、彼の掌に乗った縞瑪瑙の中に小さな猫の模様があった。

青年は立ち上がると、桜の根元から北東の方角へ繋がる道を歩き始めた。森に入ろうかとしたところで、男は立ち止まった。彼の正面の藪から、鼠が飛び出て来たからだ。鼠とは言っても、丁度小学に入りたての子供ほどの背丈もあり、しかも二本足で立っていた。

「すいません。脅かしちまったでしょうか」

 鼠はそう言って、前肢で耳の後ろを掻いた。

「そうだね。少し驚いたかな」

 青年はそう応えた。

「さっきからこの桜の周りの道を何度も何度も行ったり来たりさせられてて、ちょっとうんざりしてたもんで。人影がみえたから、慌てて飛び出しちまったもんだから」

 鼠はそう言うと、縋るような貌を男に向けた。

「こんなところで何をしていたのかな」

「おいらは雁州国の大学生で、黄海を自分の目と身体で確かめたくて令乾門から入ったんですが、途中で妖魔に追われて案内をお願いした剛氏と逸れて……で気がついたらこの桜の木の下の泉に。たぶん縞瑪瑙泉に、とらが反応しちまったんでしょうけど。あっ、とらって言うのは趨虞なんですけどね」

「ああ、あの趨虞は貴方の」

「いいえ。おいらは趨虞になんか乗れる身分じゃないんです。たまたま知り合いの方が貸してくださって」

「趨虞を貸すって……なかなか豪儀な人だね」

 鼠は再び前肢で耳の後ろを掻いた。

「でも、そろそろ戻らないと門が閉まってしまうよ」

「そうなんですけどね」

 暫く、じっと鼠をみていた青年は、青味の入った黒い髪を左手で掻き上げ、表情を緩めた。

「これをあげよう」

 青年は右手に持っていた縞瑪瑙を、鼠に見せた。

「それから、今来た道を戻りなさい。ただし、目を開けてはだめだよ。ゆっくりでかまわないから、目を瞑ったまま真っ直ぐに歩いて行くんだ。絶対に目を開けないこと。そして、その縞瑪瑙が熱くなったら肩越しに放り投げて十数える。そうすれば、君は令乾門に辿り着ける」

 そう言うと、鼠の右の前肢に縞瑪瑙に握らせた。鼠は素直に目を瞑る。青年が手を貸して森の中へと続く道に正対させる。肩を叩いた青年は、そのまま真っ直ぐだと声をかけた。鼠は、ゆっくりとした足取りで森の中に消えた。

 森の中に消えた鼠を確認した青年は、玉佩から赤い石を外し、背中越しに投げた。

「ろくた。行こうか」

 振り向いた青年は、現れた天犬の嘴の辺りを撫でてやった。背に青年を載せた天犬が、翼を一振りする。吊り上げられたかのように舞い上がる天犬の起こした風に、桜の花弁が舞った。



 ――黄朱の廬に入られては困るからね。素直に言う事を聞いてくれれば、生きられる。そうでなければ、迷いの杜に呑まれて死ぬことも出来ずに彷徨う事になる。さて、どちらになるかな。

 青年は独り言を呟くと、天犬を令乾門に向けた。

―了―

迷いの杜の薄墨桜 ―あとがき― griffonさま

2013/03/18(Mon) 00:26 No.54
 少し前、「犬狼真君は妖魔を玉に籠める」みたいな事を、 ツイッターで話してたのが・・・こんな感じになりました(^_^;)
 まぁ、「ポケ◎ンっゲットだぜっ」みたない感じかなぁ〜 なんてゆってたんですが(笑) さすがにそういうお話には出来ず・・・ ちょっと消化不良気味ですが・・・

 今年もお祭参加できてよかった。もうそれだけ(^_^;)  だいぶ脳が枯れつつありますので・・・宿題も残ってるのに・・・
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