過ぎてゆくもの
ネムさま
2017/03/23(Thu) 23:31 No.25
シャッ シャッ トントン
シャッ シャッ トントン
彼方から あれがやってくる。
シャッ シャッ トントン
シャッ シャッ トントン
微かな音が、いつの間にか 形になる。
居合わせた黄朱の民は、寝床からそっと顔を出す。
闇から現れた行列は、人の膝ほどの高さを、ゆっくりと進みゆく。
薄桃色の紗を垂らした花笠からは、時折薄い花弁がこぼれ落ちる。紗から覗く手に握られた簓(ささら)は密やかな擦音を奏でる。
トン、と外れた太鼓の音と共に、獅子頭が剽げたように顔を出す。トン、ともう一匹。
前に括られた太鼓を打ちながら、自由に花笠の行列の合間を舞い踊る。遠い昔語り、五山のいずれかに咲いた満開の花々を見て、小獅子の精達が喜び、戯れたという話そのままに。
そして… いつか昔語りのまま、花笠は深山の花々、獅子頭は小獅子の精となり、黄海の虚空に舞い乱れた。
気付くと、来た時とは反対の彼方に音がする。黄朱の民は闇に微かな音が消えるのを見届けると、黙したまま、再び寝床にもぐり込む。