「投稿作品集」 「17桜祭」

7年ぶりの桜祭りでいろいろと心配です 凛さま

2017/04/23(Sun) 13:54 No.305
 確認したしましたら、二次創作自体が6年半ぶりという;;
 妄想は大好きでも、いざまともな文章にしようと思うとなかなか出来ないものだと 痛感した数年でした。
 どこまでの嘘っぱちなら許してもらえるかなぁ〜と考える作業は 二次創作の醍醐味ではあるけれど、辻褄が合っているのかなという不安はいつもあります。 そんなこんなでしたが、この度やっとなんとかなったような気がするものが出来上がりましたので、 お邪魔致します。
 前半部分はここ数年の私だったりして(笑)

羅人の心

凛さま
2017/04/23(Sun) 13:56 No.306
 羅人府の奥でここ数年催される宴がある。
 もともとは羅人らがこれまで工夫を積み重ねた陶鵲の出来栄えを見るというものだったが。ならば燕射をして遊んでしまえばよい、いっそ日々の慰労も兼ねた宴にしてしまえばよいとはじめられたものである。
 とはいえ弓を射るのは羅人。当然不慣れな者ばかりなので、手元が狂うかもしれないと言う理由で飲酒はない。しかしそれぞれが持ち寄った宴の食事は、味はさておき見た目は冬管府の者らしく目を楽しませてくれる。

 目の前で見事に割れていく陶鵲に、羅人らは注意深く観察しそれぞれに意見を交換し合う最中、青江はなんとなく空いている一角を見て寂しそうな顔をした。
「今年も来ないつもりですかね」
 不意に別の男性羅人に話しかけられ青江の顔に緊張が走る。その羅人は
「驚かせてしまいすみません」
と小さく詫びると青江の横に座り、持ってきた重箱を青江に差し出す。
中には美しく飾り切りのされた野菜の炊き合わせたものが整然と並べられていた。
「俺が作ってみたんですけどね。青江様いかがですか」
と男性羅人は人好きする顔を見せた。

 青江が野菜の炊き合わせを一つ頬張る様を見て男性羅人はにっこり笑うと、すぐに真顔に戻り話し出した。
「あいつ。この仕事をやめたいというそぶりは見せていないんです。普段も黙々と仕事はこなしている。だけど。あいつはもう何年もこの宴に参加しない。それとなく誘っているんですけどね。でもあいつ、ただ薄く笑うだけで」
「まあ無理強いしても致し方ないだろうな」
と言って青江は苦笑した。
「でも音沙汰がないのはやはり寂しいものだ」

 暫くして青江は宴を途中で退出する。羅人の長が最後までいない事を十分に詫び、そして羅人府で個人的に作らせた青江専用の厩へやってきた。そこで休んでいた騎獣に乗ると、冬官府の西の奥の巨大な峰に挟まれた峡谷に向かう。羅人としては珍しいのかもしれないが青江は騎獣に乗れる。青江は思いついたらすぐに確かめずにはいられない為、騎獣に乗れた方が何かと便利なのだ。
「あの方達はこのような事は為さらなかったな」
騎獣を操りながら青江は一人忍び笑う。

かつて青江には師と仰ぐ者が二人いた。
一人は長年波乱が続いた慶東国の政の、半ば犠牲となり行方知れずとなったかつての師匠。名を蕭蘭という。
もう一人は蕭蘭と馴染み深く、自身は羅氏中の羅氏と周囲から賞賛されている伝説の男。名を丕緒という。
丕緒は青江とともに長きにわたり陶鵲を介して親交があったが、ある時
「私がいなくともお前が腕を揮えるよう育ててきたつもりだ。これからはあれと協力して仕事をしてほしい」
と新しい羅氏を紹介し、その後ひっそりと姿を消した。今の羅氏は、丕緒がまだ羅氏であった頃から丕緒ともに羅人府に通い、青江との信頼関係を築き上げてきたのでさしたる不満はない。しかしそれとは別に丕緒は青江にとって特別な存在である事に変わりはなかった。
 今から向かう場所は蕭蘭が梨の実を投げ、結果大きく育った梨の森が広がっている斜面を見上げる事が出来る、一畝程の広さの踊り場。騎獣に乗るようになって見つけた場所だ。だが騎獣を時々休ませる事はあっても、じっくりと梨の森を見上げようとはなかなか思わなかった。なぜなら青江はこの梨の森が苦手だからだ。正確には苦手になってしまった。青江にとって二人との長きの別れを思い起こさせる梨の森は見ているのが辛い。
 しかし今は無性にあの場所に向かいたい。羅人として駆け出しだったあの頃へ顧みたくなったのだ。

 偶然見つけた場所だから人など誰もいないと青江は高を括っていた。だから青江は一人の女の後姿を見つけた時動揺し、
「…蕭蘭様?」
と、いる筈のないかつての師の名前を口走る。目の前の女は酷く驚いた様で肩をすくませ振り向いた。
「…お前は…」
「お久しぶりでございます」
 女はおずおずと青江に返答した。青江はゆっくりと女に近づく。女は先に話題になった羅人。数年前は青江の所にも熱心に通い陶鵲の知識を深めようとしていた。
 青江は女の手に大事に抱えられている塊を見つけると、そっとその塊に触れた。
「これは…陶鵲だね」
 女は緊張の面持ちで青江を見つめると、ただ一度首を縦に動かした。
「そうか。陶鵲か。恐らくそれは向こうで披露するものなのだろう?まだ間に合う。私と一緒に来なさい」
そう言って青江は優しく女を促そうとした。しかし女は青江から目を逸らし
「いえ、私は、もう」
と口をまごつかせている。
「何を躊躇っているのか。皆が待っている。お前を心配していた仲間もいるぞ」
青江がそう言うも女はおどおどするばかり。そして
「私などあの場には立てません。あそこは憧れる場所ですけれども今の私には…」
と被りを振るばかり。
「しかし…お前が手にしているのはお前が苦心してこしらえた陶鵲ではないか。私はお前の陶鵲が見たい。お前のならばきっと…」
「恥ずかしいのでございます!」
女は大声をあげ青江の言葉を遮った。そしてはっと我に返ると
「も、申し訳、ございません…」
と小さくなった。そして青江の視線を避けるように梨の森に目を向け、ぽつりぽつりと話し出した。
「誰にも言っておりませんが。毎年あの宴を心待ちにしているのです。そして宴が始まると私も早く仲間に加わりたいといつも足掻く。ですが」
女は胸に抱いた陶鵲に力を込める。
「足掻けば足掻くほど満足いくものが出来上がらないのです」
「…だから無反応をし続けた…と、申すのだな」
「いえっっ。けして、そのようなつもりはっっ。ただ…何と声をかけていいものか分からなくて」
 すっかり萎縮している女の表情を見て青江は溜息をついた。
「なにも持ってこなくとも、素直に楽しみたいと申せばいいものを…」
目の前に広がる梨の緑がなんとも侘しく見えるのは、青江の心が遠い日の思い出に感傷的になったからだろうか。

「…主上は…」
 風にかき消されるかもしれないほどの小さな声音で、女は話だした。
「主上はあの斜面に見えております桜という薄桃色の花に、格別な思い入れがあると聞いたことがございます」
「桜?あそこには梨の木しかないであろう?」
「梨…でございますか。ではあの新緑の樹木がそうなのでしょうか。…申し訳ございません。私はあの新緑の間で控えめながらも薄桃色の花を付けております桜に目を奪われていたものですから。」
 女に言われて青江は初めて目の前に広がる梨の木に混ざって薄物色の花が咲いているのを確認することが出来た。思い起こせば苦手ながらも青江がこの場所に来る時は梨の白い花が咲く頃だ。梨の花が咲くにはまだ半月ほど早い。
 丕緒と思案し蕭蘭の気持を模索し作り上げたあの陶鵲。最後は純白の小鳥がいいと青江は丕緒に進言した。梨の花のような白。
 青江にとってこの斜面は蕭蘭が植えた梨の森としか認識がなかった。しかし女は現国主が格別の思い入れがあるという桜に注目しているという。
「知らなかった。ここは桜も咲いていたのか…」
 己の気持ち次第でこうも注目する物が変わってしまう。
 青江はなんだか可笑しくなり笑い出してしまった。突然笑い出した青江に女は又あたふたとしている。
「いやぁ、突然笑い出してすまない事をした。ところで、丕緒様は主上にお会いした事があると言っていた。何とも風変わりな王だと申していたぞ」
 この話をした時の丕緒は、柔らかでなにか大切なものを貰ったような、そしてそれは丕緒だけの秘密でありたいと願っているような、そんな満ち足りた表情をしていた。
 「左様でございましたか。風変わりな王…私には想像が出来ませんが。私は主上が導いてくれているこの国が好きでございます」
そう言う女の表情の何と輝かしい事か。続けて女はこう宣言した。


「いつかこの景色を陶鵲で表現出来ればいいなと思っています」


 青江の心に小さな衝撃が走る。
(この女もまたこの景色に魅せられ、陶鵲で表現したいと感じているのか?)
「梨花の白…桜の薄桃色…」
 青江は知らず呟いていた。その呟きに女は
「何かございましたか?」
と目をしばたかせている。
「…青江様?」
「ああ、それは素晴らしいね」
 青江は満足げに頷いた。そして 
「ならばなおの事、お前は私の宴に来なければならないな」
 そういって青江は笑うと、女の作った陶鵲は女の衣服に落とさぬよう包むよう指示し、騎獣に乗るよう女を促した。そして後ろで恐々震えている女に
「私にしっかりつかまっていなさい」
と明るく言う。二人を乗せた騎獣はふわりと飛び立つと新緑混ざる桜の上をぐんぐん上昇していった。
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