黒い麒麟 griffonさま
2010/03/24(Wed) 18:05 No.160
これからUPいたしますお話は・・・
- 黄昏の後の戴のお話のサワリです。
- でもって、多少大人向けっぽい驍×李なシーンが出てまいります。
- しかも驍宗末声を含みます。
三大禁じ手を使った上に、御祭り掲示板のルールにも抵触してます。
と言うわけで、一応主催者様にお伺いを立てた上でのUPではありますが・・・
ほんと、いつもいつもご迷惑をお掛けして、申訳ありません>未生様
7000文字ほどの短・・・くはないか(^_^;)なお話です
言い訳は後ほど・・・
登場人物 |
李斎・驍宗・楽俊・泰麒・阿選・陽子・尚隆 |
作品傾向 |
シリアス(驍宗×李斎・驍宗末声) |
文字数 |
3992文字 |
黒 い 麒 麟
作 ・ griffonさま
* * * 壱 * * *
2010/03/24(Wed) 18:06 No.161
雁州国は光州。柳北国との高岫の山並みが、虚海へと落ち込む辺りから、目も眩むような高さの断崖絶壁が続くこの海岸線が、ほんの少しだけ虚海との距離を近づける場所がある。好んで飛び込みたいと思えるような高さではないのだが、今日のように凪いでいる時なら、近隣の若い漁師や、遊び慣れた子供達の中でも蛮勇を誇るような者は、怪我をするとは思わないほどの高さになっている。凪いでいるとは言え、それでも時折打ち寄せる虚海の飛沫がその場所まで届く。
岸からそれほど離れていない場所に、ぽつりぽつりと島影が見る。
泳いでも渡れそうだと思えるほどの距離にある島々には、そのずっと沖にある戴極国が平和であった頃、漁を営む荒民や、海匪賊達の拠点でもあった。海の中にも、まるで高岫が存在するかのように、ある空間を境にして雲霞のごとく妖魔が飛び交っているのが、ここからもまるで黒雲のように見えている。虚海の中も妖魔の密度が上がっているのだろう、五百年を超える大王朝である雁の沿岸ですら、魚影を見ることが出来ない。そのためか、沿岸の島々から人が消えて、久しい。
島影と岸との間の波間に、小さな板切れが浮かんでいた。
海の妖魔にでも破壊された船舶の破片なのだろうか。漂う板の上には、何か載っているように見えた。
―― もう……。
残っている力を振り絞って縋りついているようだが、板から躯がゆっくりとずり落ちて行く。凍っていないのが不思議な程に冷たい虚海に、腰から下が浸かっていた。
―― 我が身が仙である事が恨めしい。只人ならば、これほど苦しまずとも……。
ゆっくりとずり落ちて行く躯を、留める事が出来ないようだ。辛うじて、板の年輪の跡に引っかかっていた左手の人差し指と薬指の爪が、布を引き裂くような音をたてて剥がれた。虚海のうねりに煽られ、唐突に滑り落ちる速度が上がった。板の縁に華奢な下顎が載り、まるで口付けを受ける前の女のように、掬い上げられ、塩水を被って斑になった赤茶の長い髪が幾房か分かれた。奈落の底に引きずり込まれるように、躯はずり落ちて行く。
最後に、爪の剥がれた人差し指が僅かに板の縁を探るように動いて、板切れに載って漂っていた者は、暗黒のような色合いの虚海に消えた。
―― 申し訳ありません。私はお約束を守る事が……申し……ん……麒……
沈んでいく間に、何かの影が過ぎった様な気がした。底の無い暗い海に沈んで消えるのと、得体の知れない妖魔の腹に収まるのと、どちらが楽だろうかと、考えていた。
彼女の名は、戴極国瑞州師中将軍劉紫。字を李斎と言う。