かそけき湖畔の楽園
作 ・ 空さま
* * * 第5節 * * *
2010/05/04(Tue) 20:24 No.684
「まったく、はらはらしましたよ。浩瀚さま」
「なんだ桓たい、たかが桜見物の護衛で音を上げるなんて。お前らしくないな」
「浩瀚さまは見ていないからそんなことを言えるんですよ。このまま切り合いにでもなって、州師でも駆けつけてきたらどうやって申し開きをしようかと、無い頭を総動員して考えていたんですから」
「そんなこと、主上が御自分でなさるだろう。おまえが悩むことではないのでは?」
そう言って、ちびりとぐい飲みを傾ける。今夜は、桓たいが滝桜のある建州の四春から持ち帰った酒に、油揚げのあぶった物を肴にして、二人は飲んでいた。
「それで?」
浩瀚が、桓たいに話の続きを求めると、
「やはり、和州の州師のようでしたね」
「そうか」
「建州では雇ってもらえなかったようです」
「そのようだな」
「和州と建州は懇意にしていたようですが」
「それも昔の話だろう。余裕がなければ兵など雇えんよ。それに、お前の話の通りだとすると、あんまり大した能力もなさそうだが」
「そうですね。民人を威嚇するぐらいの能力しかないかもしれません」
「その、気配を消すのがうまい男はどうだ? 使えそうか?」
「もう少し、調べませんと」
「そうだな。力を持つ物はそれを惜しみなく出してほしい物だな」
「主上のためにですか」
それには答えずに、にやりと笑って器に残っていた酒を飲み干すと、桓たいの前にからのぐい飲みを差し出した。
慶国はこれからの国だ。支える手はいくらでも必要だ。必要とあれば、荒くれ男だろうが、滝桜だろうが、すべて主上のために役立ってもらうさ。
そんな浩瀚の想いを知ってか知らずか、桓たいも黙って差し出された器に酒を注いだ。
おしまい